「くい」立体商標事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年01月15日
事件名 「くい」立体商標事件
キーワード 商標立体商標
着目点 立体商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかについての判断された例
事件番号 平成29年(行ケ)10155号
判決のポイント

争 点

 3条1項3号に該当し、かつ3条2項に該当しないという審決の判断が誤っているか。

裁判所の判断(抜粋)(取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとの判断の誤り)については省略)

2 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとの判断の誤り)について

(1) 商標法3条2項の趣旨

 前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。

 そして,立体的形状から成る商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,①当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,②当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合考慮して判断すべきである。・・・

(4) 小括

 以上のとおり,①原告商品の立体的形状は,他の同種商品にはない特徴的なものとはいえないこと,②一定の販売実績を挙げてきたものの,そのシェアは不明であり,実用新案権や意匠権が存在していたこと,原告商品の広告宣伝展示が継続して行われたとしても,取引者,需要者は,併せ使用された「くい丸」の文字商標に注目して自他商品の識別を行ってきたと認められること,これらの事情を総合すると,原告商品の立体的形状が,文字商標から独立して,その形状のみにより自他商品識別力を獲得するには至っていないというべきである。

 したがって,本願商標は,使用をされた結果自他商品識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものということはできない。

(5) 原告の主張について

 原告は,原告実用新案権,原告意匠権の存続期間満了後に,本願商標と実質的に同一の形状から成る杭が,第三者の取扱いに係る商品として複数販売されていることは,原告商品の立体的形状が自他商品識別機能や品質保証機能を備えているが故にこれに便乗するものであると主張する。

 確かに,本願商標と実質的に同一の形状から成る他社商品に関するインターネット上のウェブサイトには,「【くい丸】と同型・同品質!さらに!まとめればまとめるほど,あの【くい丸】よりもお買い得!!!」「<杭 ジェネリック杭 アルマックス社製>…まとめ買いでくい丸よりお得!」(甲129,乙20の2),「くい丸と同じ形状です。」(甲130,乙21)との記載があり,これら販売業者においても,その販売商品が原告商品の後発品であることを認識していることが推認される。

 しかしながら,原告は,平成23年9月2日に原告意匠権の存続期間が満了するまでは,原告実用新案権又は原告意匠権に基づき原告商品を独占的に実施していたことを推認できるところ,実用新案権や意匠権の権利者が,考案や意匠を一定期間独占できることは当然であり,実用新案権や意匠権に基づく一定期間の独占の結果として,その権利範囲に含まれる商品の形状又はこれに類似する商品の形状について,権利者の業務に係るものとして知られたことをもって,直ちに商標登録に必要な自他識別力を備えたことにはならない。商標権は,存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができることを踏まえると,実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について商標権によって保護を与えることは,実用新案法や意匠法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じかねず,事業者間の公正な競争を不当に制限することになる。

 したがって,実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について権利による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情の認められない限り,使用による自他識別力を取得したと認めることはできない。

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