ヒルドソフト事件

裁判所 知財高裁
判決日 2021年08月19日
事件名 ヒルドソフト事件
キーワード 商標類否判断
着目点 「取引の実情」は、商標の指定商品又は指定役務一般に係る取引の実情であって、特定の商品の「取引の実情」ではないとの判示がなされた例
事件番号 令和3年(行ケ)10030号
判決のポイント

対象商標

ヒルドソフト(標準文字)

 

引用商標

           

争 点

商標法4条1項11号該当性の判断の誤り

 

裁判所の判断

(1) 本件商標と引用商標の類否について

(ア) 本件商標は,「ヒルドソフト」と片仮名6文字を標準文字で書してなり,その構成文字に相応して「ヒルドソフト」の呼称が生じるが,一 般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。

(イ) 引用商標1は,「Hirudoid」の欧文字8文字を別紙1の1の書体で書してなり,その構成文字に相応して「ヒルドイド」の呼称が 生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。

(ウ) 本件商標と引用商標1を対比すると,本件商標は,「ヒルドソフト」の片仮名6文字の標準文字からなるのに対し,引用商標1は,「Hirudoid」の欧文字8文字を別紙1の1の書体で書してなるものであり,このような構成文字の種類,書体及び文字数の差異から,両商標は,外観上明確に区別することができ,外観において明らかに相違する。 また,本件商標は,「ヒルドソフト」の称呼が生じるのに対し,引用商標1は,「ヒルドイド」の称呼が生じ,語頭3文字の「ヒルド」は共通するものの,それに続く「ソフト」と「イド」の語数と音の違いによって両者は明瞭に聴別することができるから,両商標は,称呼において明らかに相違する。

したがって,本件商標と引用商標1は,外観及び称呼において明らかに相違し,両商標ともに特定の観念を生じさせないから,本件商標と引用商標1を本件商標の指定商品である「薬剤」に使用したときに,その 出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標は,引用商標1に類似する商標であるということはできない。

 

(2) 原告の主張について

原告は,前記第3の1(1)ウのとおり,取引の実情に照らせば,本件商標と引用商標は外観及び称呼において類似する商標である旨主張する。しかし,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者, 需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである(最高裁第三小法廷昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)が,ここで問題とされる「取引の実情」は,商標の指定商品又は指定役務一般に係る 取引に関する実情であって,特定の商品に係る「取引の実情」ではないから,原告商品の販売名である「ヒルドイド」を念頭においた「取引の実情」を同号に係る商標の類否判断で考慮することは相当でない。

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