モータ事件

裁判所 東京地裁
判決日 2018年03月08日
事件名 モータ事件
キーワード クレーム解釈
着目点 明細書の記載に基づいて、ヨークハウジングの開口部側端部の意義を解釈し、ヨークハウジングの成型とは別の工程で設けられた段差部を含まないと解した例
事件番号 平成28年(ワ)35189号
判決のポイント

争点

被告製品には、「開口部側端部」に、ギアハウジングを固定するためのフランジ部が設けられているか。

裁判所の判断

本件発明の技術的意義は上記1のとおりであり,本件発明は,ヨークハウジングの開口部側端部でホルダ部材の位置決めを行うということによって,ヨークハウジングの側部に段差部等を設ける必要がなくなり,位置決め構造の構成が容易になり,ヨークハウジングの製造の容易化等の効果をもたらすという点に技術的意義があるものである。

このような本件発明の技術的意義からすると,構成要件Fにおけるホルダ部材の当接部と当接するヨークハウジングの「開口部側端部」とは,ホルダ部材の当接部が当接する部分であって,ヨークハウジングを成型する際に形成されたヨークハウジングの開口部側の部分であり,少なくとも,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程で設けられた段差部を含まないと解するのが相当である。

なぜなら,ヨークハウジングの成型とは別の工程でホルダ部材の位置決めのため段差部を設けると,単にヨークハウジングを成型する場合と比べて位置決め構造の構成と製造が複雑化するため,位置決め構造の構成の容易化と製造の容易化という本件発明の効果を奏さなくなるのであり,本件発明は,少なくとも,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程でヨークハウジングに段差部を設けることを排除していると解されるからである。

・・・

被告製品についてみると,被告製品のホルダ部材はヨークハウジングに組み付けられた状態で,ホルダ部材の当接部の当接端面がヨークハウジングのフランジ部先端より約0.9mm内側(ヨークハウジングの奥へ向かう方向側)に位置し,ヨークハウジングの被当接部の当接端面もフランジ部先端より約0.9mm内側(ヨークハウジングの奥へ向かう方向側)に位置していることが認められる(弁論の全趣旨)。このように,ホルダ部材の当接部の当接端面は,ヨークハウジングに約0.9mm内側に挿入されて当接し位置決めされるものであるから,上記のヨークハウジングの被当接部の形状は,ホルダ部材の位置決めのための段差部であると認められる。そして,このヨークハウジングの段差部は,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするため,ヨークハウジングの成型とは別の工程で成型されたものであると認められる(弁論の全趣旨)。

そうすると,被告製品では,ヨークハウジングを成型する際に形成された部分をホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするために利用せず,ヨークハウジングの成型とは別の工程によって設けられた段差部が,ホルダ部材の当接部が当接する被当接部となり,ホルダ部材の位置決めをしている。このようにホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程によって設けられた段差部は,上記に述べたところに照らし,構成要件D及びFの「開口部側端部」とはいえない。

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