不織布及び不織布製造方法事件

裁判所 知財高裁
判決日 2017年06月13日
事件名 不織布及び不織布製造方法事件
キーワード クレーム解釈
着目点 特許権者のクレーム解釈が、外部辞書や明細書全体の整合性に基づいて否定された例
事件番号 平成29年(ネ)10005号
判決のポイント

争点

請求項の「加熱前の前記メラミン系樹脂発泡体よりも柔軟な」の解釈

裁判所の判断(抜粋)

控訴人の主張について

() この点に関し,控訴人は,柔軟性を向上するとは,柔軟性の有無と柔軟性の程度の双方の向上を意味し,本件明細書等における「柔軟に変形可能な靱性」を向上するという記載からすると,本件各発明は,本質的には,柔軟性の有無の向上,すなわち,材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めることを意図したものであるなどと主張する。

・・・

確かに,本件明細書等には,従来のメラミン系樹脂発泡体は「柔軟に変形可能な靱性」を備えていない(【0006】),本発明の目的とするところは,「柔軟に変形可能な靱性」を備えることにある(【0008】),本発明の構成によるメラミン系樹脂発泡体のシート状物は「柔軟に変形可能な靱性」を発揮する(【0010】)等,本件各発明において,「柔軟」かつ「靱性」を備えることを意図していることをうかがわせる記載はある。しかしながら,理化学辞典第5版(甲30)及び工業材料大辞典(甲31)によれば,「靱性」とは,一般に,「材料のねばり強さ,外力に抗して破壊し難い性質」を意味することが認められるところ,本件明細書等には,「柔軟性」の向上が,靱性,すなわち,「材料のねばり強さ,外力に抗して破壊し難い性質」の向上を意味するものである旨の記載はない。また,控訴人は,乙3意見書において,「『柔軟』は『やわらかなこと。しなやかなこと。』(広辞苑)を意味し,『柔軟性』は,やわらかな性質又はしなやかな性質を意味する。」と記載し,「柔軟性」が「やわらかな性質」を意味するとの意見を述べていたことが認められる。「やわらかな」ものは,一般に,変形しやすいと考えられるから,「柔軟性」を向上するということが「容易に変形しやすいものとなる」ことを意味するとの解釈とは矛盾しない一方,「材料のねばり強さ,外力に抗して破壊し難い性質」の向上とは意味が異なり,整合しない。

よって,柔軟性を向上することが,材料を破壊し難くして柔軟性維持の限界を高めることであるとの控訴人の主張は採用することができず,構成要件B1及びB2の「よりも柔軟な」という文言を,「より靱性が高い(破壊し難い)」と解釈することはできない。

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