低比重リポタンパク質受容体関連タンパク質6(LRP6)を調節するための分子および方法

裁判所 知財高裁
判決日 2018年09月18日
事件名 低比重リポタンパク質受容体関連タンパク質6(LRP6)を調節するための分子および方法事件
キーワード 実施可能要件 サポート要件
着目点 結合分子が結合するエピトープの配列が明細書に開示されていない特許についての、特許取消決定の判断(実施可能要件及びサポート要件)が是認された例
事件番号 平成29年(行ケ)10045号
判決のポイント

争 点

 特定のアミノ酸配列の抗原結合部分を含むLRP6結合分子の発明において、明細書の発明の詳細な説明に,該結合分子が結合するエピトープのアミノ酸配列が具体的に開示されていない場合でも、実施可能要件とサポート要件を充足するか。

裁判所の判断(抜粋)

b 本件明細書の記載について

 上記1(2)において認定したとおり,本件明細書には,本件発明に係るLRP6結合分子のLRP6上の結合部分や結合によるWntリガンドの結合阻害についての説明(【0015】,【0033】等)とともに,実施例1には,優先的にWnt1又はWnt3a誘導Wntシグナル伝達を阻害する抗LRP6アンタゴニストFabs(実験時のプライベートネームであるFab003,Fab004,Fab015など7つのFabで記載)が同定された旨が記載されている(【0226】~【0228】)。

 しかし,本件明細書には,上記各Fabがいかなる抗原結合部分を含んでいるのか,すなわち,抗原結合部分やそれが認識するエピトープがいかなるアミノ酸配列等によって特定されるのかについて,これを具体的に示す記載はなく,その手掛かりとなる記載も見当たらない。また,実験結果が記載されていたと推測される図は,全て欠落している。

c 本件発明1~22,31~33は特定のアミノ酸配列の抗原結合部分を含むLRP6結合分子,すなわち化学物質の発明である。そして,上記bにおいて説示したとおり,本件明細書の記載から,実施例で得られた各Fabのアミノ酸配列等の化学構造や認識するエピトープを把握することはできない。また,本件明細書には,Wnt1特異的等の機能的な限定に対応する具体的な化学構造等に関する技術情報も記載されていない。そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明における他の記載及び本件特許の出願時の技術常識を考慮しても,特許請求の範囲に規定されている300程度のアミノ酸の配列に基づき,Wnt1に特異的である等の機能を有するLRP6結合分子を得るためには,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があると認めるのが相当である。

 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,本件発明に係る物を生産でき,かつ,使用することができるように具体的に記載されているとはいえない。

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