流体供給事件

裁判所 知財高裁
判決日 2021年06月28日
事件名 流体供給事件
キーワード 対比判断
着目点 請求項に具体的に特定されていない引落し金額の設定の仕方について、システムによって予め設定された金額であると解釈された例
事件番号 令和2年(ネ)10044号
判決のポイント

争 点

給油前に引き落とされるべき金額について

裁判所の判断

イ 引き落とされるべき金額について

(ア) 本件発明1の構成要件1C1において,「先引落し」の金額となる「記憶媒体の金額データが示す金額以下の金額」,すなわち「カード残高以下の額」を具体的にどのように定めるかは特定されていない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると,先引落しの金額は,実施例1においてはカード残高の全額であり(【0037】),実施例2においては「予め決められた設定金額」(以下「事前設定金額」という。)である(【0049】)。後者の「設定」を誰が行うかについて,一審原告は,顧客が設定する場合も含まれると主張するが,顧客が設定する金額は,給油の都度変動するはずのものであって,「予め決められた」金額であるということはできないから,上記主張を採用することはできず,上記文言は,設定器のシステムが予め設定した金額を意味するものと解すべきである(ただし,顧客が,個々の給油とは別に,予め定額の引き去り額を設定するというのであれば,これは,「予め決められた設定金額」に当たる可能性はあり得る。

しかし,被告給油装置の具体的動作③④において顧客が選択する「給油量又は給油金額」は,まさに,個々の給油の際に指定するものであって,その都度変動するものであるから,上記の定義には当てはまらない。)。

(イ) このように,「先引落し」の対象として,通常であれば,まず第一に思いついてよいはずの「顧客が指定した金額」が実施例として記載されず,いわば給油所運営者側の都合で設定される「カード残高の全額」又は「予め決められた設定金額」のみが実施例として記載されているのは,構成要件1C1における「先引落し」額が,上記1⑵で指摘したとおり, 給油代金の「担保」としての性格を有するものだからであると考えられる。すなわち,本件発明1の構成要件1Cのステップにおいては,給油予定量とは何ら関係なく,担保としての「先引落し」額が決定されるものであり,その後,1Dないし1Fのステップにおいて初めて,「実際の給油→給油量に基づく給油代金の算定→先引落し額から給油代金額の 引去り→残額の返還」という,給油が実施されたことを前提とした精算処理が予定されている。このように,「先引落し」額そのものは,実際の給油代金額としてではなく,あくまでも後に支払われるべき給油代金額の担保として決定されるものであるため,その額の決定に当たっては,給油所運営者の側が,給油代金確保の必要性その他の観点から適当な金額を定めれば足りるのであって,その額を決定するのに当たって顧客の意思を反映させる必要はない。このように考えると,実施例が,顧客が先引落し額を決定する場合を記載していないのは,その必要がないからであり,したがって,本件発明1は,顧客が「先引落し」額を決定するという構成を想定していないものと解される。

これに対し,被告給油装置においては,「先引落し」の金額となる「電子マネー媒体の金額データが示す金額以下の金額」は,顧客が利用に際して指定する給油予定量に対応した給油予定金額である。これは,上記2⑸のとおり,被告給油装置が利用する前払い式電子マネーの決済 手続においては,まず,顧客が一定額を支払って「給油ができる権利」を購入する必要があるからである。このため,被告給油装置の構成要件1c1において引き落とされる金額は,担保ではなく給油代金そのものであり,したがって,それが顧客の意思と関わりなく決定されることはあり得ない。このように,本件発明1と被告給油装置とでは,先引落し金額が有する意味合いが全く異なり,それを反映して,被告給油装置においては,先引落し金額を,本件発明1の構成要件1C1が想定しない,顧客が定めるという方法で定めることとなっているのであるから,被告給油装置の構成要件1c1は,本件発明1の構成要件1C1を充足しない。

 

※記憶媒体についての判断も面白いので参照されたい。

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