白色反射材及びその製造方法事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年03月29日
事件名 白色反射材及びその製造方法事件
キーワード 進歩性相違点の看過
着目点 甲1発明の「表面にシロキサンの被膜が形成され」た「酸化チタン粉末」が本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」に相当するとした審決の認定を、誤りと判断した事例
事件番号 平成29年(行ケ)10130号
判決のポイント

争 点  

 進歩性に関する判断の誤りの有無(相違点の看過)

裁判所の判断(抜粋)

(3)本件訂正発明1と甲1発明との対比

ア 決定は,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成されるシロキサンの被膜は,シロキサン結合(Si-O-Si)を有するSiO2の被膜であるから,甲1発明において,「表面にシロキサンの被膜が形成され」た「酸化チタン粉末」は,本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」に相当するとして,この点を,本件訂正発明1と甲1発明の一致点であると認定した。

 これに対し,原告は,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成される被膜は,有機シロキサンの被膜であって,無機のSiO2被膜ではない旨主張するので,以下,検討する。・・・

エ 前記認定のとおり,本件訂正発明1の「SiO2で表面処理された・・・酸化チタン粒子」とは,文言上,「酸化チタン粒子」が,「SiO2(シリカ)」で表面処理されているものであることは明らかである

 これに対し,甲1文献には,酸化チタン粉末の表面処理のいずれの方法によっても,甲1発明の酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載されていることが認められるものの,甲1文献の上記記載は,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「Si-O-Si結合」を含有する被膜が形成されていることを示すにとどまるものであって,「SiO2(シリカ)」の被膜が形成されていることを推認させるものではない(前記認定のとおり,シロキサンは,Si-O-Si結合を含むものの総称であって,SiO2(シリカ)とは化学物質として区別されるものである。)。また,その他,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に「SiO2(シリカ)」が生成されていることを認めるに足りる証拠はない。・・・

 したがって,甲1発明において,酸化チタン粉末の表面に,「SiO2(シリカ)」が生成されているとは認めることができず,甲1発明の酸化チタン粉末が「SiO2(シリカ)」で表面処理されているということはできない。

(4)被告の主張について

ア 被告は,甲1文献の「酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜」が形成されるとは,シロキサン結合(Si-O-Si)を有する構造が,酸素原子を介して,酸化チタン表面に結合することであり(乙1,2),シロキサン結合(Si-O-Si)を有する構造が,酸素原子を介して,酸化チタン表面に結合するには,膜となる分子がOH基を有する必要があるから,甲1文献に明記はないけれども,甲1発明に係るテトラエトキシシランについても,少なくともシロキサン被膜が形成される時点までに,部分的に加水分解されて(すなわち,「完全に」加水分解されていなくても),OH基となっている部分を備えていることは明らかであり,被処理面にはSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が形成されるなどと主張する。

 しかしながら,甲1文献には,甲1発明において,酸化チタン粉末の表面にシロキサンの被膜が形成されたことが記載されているにとどまるものであり,テトラアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物について反応すべきものが全て反応したものであるとの記載もなく,示唆もされていないから,甲1発明において,酸化チタン粉末の表面に,「SiO2(シリカ)」が生成されていると認めることができないことは前記認定のとおりである。

 また,被告が主張するように,甲1発明において,少なくともシロキサン被膜が形成される時点までに,部分的に加水分解されて,被処理面にSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が形成されるとしても,被処理面のSi-O-Si結合からなる「酸化シリコンの単分子膜」が「SiO2(シリカ)」であることを示す証拠はなく,そのような技術常識を認めるに足りる証拠もない。

 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

イ 被告は,本件訂正発明における酸化チタンのSiO2などによる表面処理は,光触媒作用を抑制できる程度のものと解するのが相当であるのに対し,甲1発明の表面処理により形成された,酸化チタン粉末表面の「シロキサンの被膜」も,酸化チタンの光触媒作用を抑制するものであり,本件訂正発明1に係る,酸化チタンにされた「SiO2などで」の「表面処理」と同等の機能を備えるものといえるから,甲1発明に係る酸化チタン粉末の表面処理においては,本件訂正発明1に係るSiO2と同等のSiO2が形成されているといえる旨主張する。

 しかしながら,甲1発明の「シロキサンの被膜」については,必ずしも,酸化チタンの光触媒作用を抑制するものということはできない(甲1文献にその旨の記載はない。)。仮に,甲1発明の酸化チタン粉末の表面に形成された「シロキサン」被膜が,SiO2の被膜と同等の機能を備えるものであったとしても,両者は化学物質として区別されるものであり,その構成が異なるものであるから,両者を同一の物とは認められない。

 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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