電子メール誤送信防止装置事件

裁判所 知財高裁
判決日 2020年06月18日
事件名 電子メール誤送信防止装置事件
キーワード 均等論
着目点 発明の課題を厳格に解釈して本質的部分を認定し、被告装置は本質的部分を備えないと判断された例
事件番号 令和元年(ネ)10063号
判決のポイント

争 点

均等侵害の成否

裁判所の判断

ア  控訴人は,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が,個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制御を行うことが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分であると主張する。

しかし,本件明細書等1には,「特許文献1に記載の技術においては,送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】),「本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落【0005】)と記載されている。

「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味することは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は,誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば,その他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされることとなることを課題として認識し,その課題に鑑みて,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とするものと解される。

このように,本件明細書等1には,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされてしまうという従来技術である特許文献1の課題に対し,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことによって課題を解決しようとすることが記載されているのであるから,そのために必須の構成である電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割する構成が,本件発明1の本質的部分に含まれないとはいえない。

イ  控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術では,本来保留される必要のない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留されてしまうことであって,それに比べれば,ドメインに応じた送出制御を行った場合であっても,少なくとも一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる」効果を得ることができる旨主張する。

しかし,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】①)とは,本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するのが自然である。

また,前記アのとおり,「効率よく電子メールを送出させる」ことは,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされるものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によれば,保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送信は全てなされるのであるから,本件発明の効果も同様と解すべきであって,保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることでは足りないというべきである。

・・・

エ  被告装置は,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割するという,本件発明1の本質的部分に含まれる構成を有していないから,均等の第1要件を充足しない。

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