骨切術用開大器事件

裁判所 東京地裁
判決日 2018年12月21日
事件名 骨切術用開大器事件
キーワード 均等侵害
着目点 均等侵害が認められた事例
事件番号 平成29年(ワ)18184号
判決のポイント

争 点

 被告製品による均等侵害の成否。

裁判所の判断(抜粋)

(2) 第1要件(非本質的部分)について

ア ・・・

イ そこで,本件発明と被告製品の相違点に係る構成が本件発明の本質的部分に該当するかどうかについて検討する。

(ア) 本件発明は,前記のとおり,一対の拡大器を用いて切込みを拡大した場合には,拡大器が移植物の挿入の妨げとなり,また,挿入時に拡大器を切込みから取り外した場合には,切込みが拡大された状態に維持されず,移植物の挿入が困難になるという課題を解決するため・・・,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設けることにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能とし,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材により切込みの拡大を維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを確保して移植物の挿入を容易にするものである・・・。

 上記によれば,本件発明において従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設け,これにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能にするとともに,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材によりその拡大状態を維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを確保して移植物の挿入を容易にする点にあるというべきである。

(イ) 他方,被告製品は,①変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,当該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であり,②開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,各揺動部材の上側揺動部に角度調整器のピンを挿通させるためのピン用孔を設け,同各揺動部材の下側揺動部に留め金の突起部をはめ込むための開口部を設けるとの構成を備えることにより,③開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態において2対の揺動部材が同時に開くことを可能にし,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを 確保して移植物の挿入を容易にするものであると認められる。

 被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部は,2対の揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部に相当すると認められ,これにより,2対の揺動部材が同時に開くことが可能になり,切込みを拡大した後には,その拡大状態を維持しつつ,その1対を取り出して切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することで移植物の挿入を容易にするものであると認められる。そうすると,被告製品は,本件発明とその特徴的な技術的思想を共有し,同様の効果を奏するものであるということができる。

(ウ) 本件発明と被告製品との相違点は,前記のとおり,本件発明では,係合部が一方の揺動部材の一部分を構成するものであるのに対し,被告製品では,係合部に相当する角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材2とは別部材である点にあるところこのような相違点は,係合部を揺動部材の一部として設けるか別部材にするかの相違にすぎず,本件発明の技術的思想を構成する特徴的部分には該当しないというべきである。・・・

(5) 第5要件(特段の事情)について

ア 第5要件に関し,被告は,構成要件Eは本件補正によって追加されたものであるところ,本件拒絶理由通知に対する本件意見書における「本発明は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違しています。」との記載によれば,原告は,被告製品のように係合部を別部とする構成を特許発明の対象から意識的に除外したと理解することができるから,均等侵害は成立しないと主張する

 しかし,本件意見書には,「引用文献1には,端部が回転可能に連結されることにより開閉可能に設けられた一対のジョーを備えた開創器アセンブリが開示されています。」,「このような構成(判決注:本件発明に係る構成)によれば,2組の揺動部材を同時に開かせることにより,骨に形成した切り込みの拡大作業を容易にし,また,切り込みの切断面に局所的に過大な押圧力が作用することを防ぐことができる」,「2つの開創器 アセンブリを単に着脱可能に組み合わせただけでは本発明の構成を導くことはできません。」「引用発明1には,切り込みの切断面に作用する押圧力を低減するという課題,および,2つの開創器アセンブリを一体で開動作させるという係合部の作用に対する示唆がありません」などの記載がある。

 上記記載によれば,本件意見書の主旨は,特許庁審査官に対し,引用例1が一対の揺動部材を開示していることを指摘し,それに対し,本件発明は,開閉可能な2対の揺動部材を組み合わせ,一方の揺動部材を他方の揺動部材に係合するための係合部を設けることにより,両揺動部材が同時に開くことを可能にするものであることを説明する点にあるというべきである。そして,同意見書には,係合部の構成,すなわち,係合部を揺動部材の一部として構成するか,揺動部材とは別の部材により構成をするかを意識又は示唆する記載は存在しない

 そうすると,被告の指摘する「2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える」との記載は,上記説明の文脈において本件発明の構成を説明したものにすぎないというべきであり,同記載をもって,同意見書の提出と同時にされた本件補正により構成要件Eが追加された際に,原告が,係合部を揺動部材とは別の部材とする構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認めることはできない

ウ したがって,被告製品は第5要件を充足する。

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