筆記具事件
裁判所 | 知財高裁 |
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判決日 | 2017年08月30日 |
事件名 | 筆記具事件 |
キーワード | |
着目点 | 平均粒子径を定義なく用いた発明について、その数値範囲を具体的に特定することができないと判断された例 |
事件番号 | 平成29年(行ケ)10187号 |
判決のポイント
争点
「前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は,0.5~2.0μmの範囲にあり」等の記載は、抽象的に平均粒子径と述べるのみで、その数値範囲を具体的に特定できていないか。
裁判所の判断(抜粋)
(3) 以上によれば,本件発明の「平均粒子径」の意義が明確といえるためには,少なくとも,①「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」が球形(略球形を含む。)であって,粒子径(代表径)の定義の違いがあっても測定した値が同一となるか,又は②非球形であっても,粒子径(代表径)の定義が,当業者の出願時における技術常識を踏まえて,本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載から特定できる必要がある。
[①について]
以上のとおり,本件発明1の「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の集合体には,球形とはいえないマイクロカプセル顔料が一定数ないし全てを占める集合体も含まれると解される。そして,このような「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の集合体については,前記1のとおり,粒子径(代表径)の定義の違いが「平均粒子径」の値に影響を及ぼすものと認められる。
[②について]
(2) 本件特許請求の範囲及び本件明細書には,粒子径(代表径)の定義に関する明示の記載はない。
当業者の技術常識を検討すると,平成11年11月1日から平成14年10月31日までの間に,筆記具用インクの平均粒子径の測定方法が記載された特許出願の公開特許公報58件のうち,レーザ回折法で測定したものが23件,遠心沈降法で測定したものが6件,画像解析法で測定したものが8件,動的光散乱法で測定したものが22件(うち1件は遠心沈降法と動的光散乱法を併用)であった一方,等体積球相当径を求めることができる電気的検知帯法で測定しているものはなかったこと(甲20),平成14年6月1日から平成17年5月31日までの間の特許出願について,審判官が職権により甲20と同様の調査したところ,原告ら及び被告以外の当業者では,電子顕微鏡法,レーザ回折・散乱法,遠心沈降法により平均粒子径を測定している例があった一方,電気的検知帯法が用いられた例は発見されていないこと(弁論の全趣旨)が認められる。また,種々の測定方法で得た値から,再度計算して,等体積球相当径を粒子径(代表径)とする平均粒子径に換算しているとも考え難い。そうすると,粒子径(代表径)について,等体積球相当径又はそれ以外の特定の定義によることが技術常識となっていたとは認められない。
以上のとおり,技術常識を踏まえて本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載を検討しても,粒子径(代表径)を特定することはできない。