医薬事件
裁判所 | 知財高裁 |
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判決日 | 2017年09月29日 |
事件名 | 医薬事件 |
キーワード | |
着目点 | 治験用サンプル薬の製造が事業の準備に該当するかを判断した例 |
事件番号 | 平成27年(ワ)30872号 |
判決のポイント
争 点
被告に先使用権が成立するか
裁判所の判断(抜粋)
(1)先使用権の成否について
被告は,先使用権の成立を基礎付ける事実として,本件出願日(平成24年8月8日)までに,本件2mg錠剤のサンプル薬を製造して本件2mg製品の製造販売承認の申請に必要な治験を実施したことや,本件4mg錠剤のサンプル薬を製造して被告製品(本件4mg製品)の製造販売承認の申請に必要な治験を実施したことを主張する。
しかしながら,・・・本件出願日までに,本件2mg製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件Eを備えるものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権が成立したということはできない。
(2)被告において本件発明2と同じ内容の発明がされていたか否かについて
ア 被告は,本件2mg製品及び被告製品(本件4mg製品)が本件発明2の技術的範囲に属することを前提とした上,本件2mg錠剤のサンプル薬が本件2mg錠剤の実生産品と同一処方,同一工程により製造され,また,本件4mg錠剤のサンプル薬が被告錠剤(本件4mg錠剤の実生産品)と同一処方,同一工程により製造されていた旨主張し,それゆえ,本件2mg錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬がそれぞれ本件発明2の構成要件Eを備えていたものである旨主張する。
しかし,被告の提出に係る書証からは,実生産品とサンプル薬が同一の工程により製造されたものであると直ちに認めることは困難である。すなわち,本件で問題となるのは,「PTP包装してなる医薬品」を構成する「錠剤」の「水分含量」が「1.5~2.9質量%」の範囲となるよう管理されていたか否かであるところ,・・・錠剤が製造された後,PTP包装された状態で,錠剤の水分含量がいかなる値となるかという観点から工程の同一性を論じるためには,被告の提出に係る全ての書証をもってしても,情報が不足しているというほかはない・・・。
(3)本件2mg製品及び本件4mg製品(被告製品)の内容が一義的に確定していたか否かについて
仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬であるPTVD-203及び本件2mg錠剤のサンプル薬であるPTVD-303の水分含量が,その製造当時,本件発明2の構成要件Eの数値範囲内にあったとしても,以下のとおり,直ちに本件2mg製品及び本件4mg製品(被告製品)の内容が一義的に確定していたということはできない。
すなわち,成分及び工程それ自体が同様であったとしても,A顆粒及びB顆粒の各水分含量が管理範囲の上限付近にあるか,下限付近にあるか,・・・錠剤が,PTP包装されるまでどのように保管されるかにより,PTP包装された錠剤の水分含量は,相違し得るものというべきであるから,特定のロット番号のサンプル薬・・・が本件発明2の構成要件Eを備えていたとしても,他のロットの錠剤がどのような水分含量であったかは明らかでなく,同構成要件を備えているか否かは不明であるというほかはない。