沖国大ヘリ墜落事故事件
裁判所 | 東京地裁 |
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判決日 | 2018年02月21日 |
事件名 | 沖国大ヘリ墜落事故事件 |
キーワード | |
着目点 | ドキュメンタリー映画に報道用映像を使用したケースで、公正な慣行に合致したものとして引用の抗弁が成立するか判断した例 |
事件番号 | 平成28年(ワ)37339号 |
判決のポイント
争 点
著作権の行使に対する引用(著作権法32条1項)の抗弁は成立するか
裁判所の判断(抜粋)
5 争点4(著作権の行使に対する引用〔著作権法32条1項〕の抗弁は成立するか)について
⑴ 被告は,本件映画における本件各映像の利用が,適法な引用として,著作権法32条1項により許容されると主張する。
⑵ 著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定する。
ここで,単に「利用することができる。」ではなく,「引用して利用することができる。」と規定していることからすれば,著作物の利用行為が「引用」との語義から著しく外れるような態様でされている場合,例えば,利用する側の表現と利用される側の著作物とが渾然一体となって全く区別されず,それぞれ別の者により表現されたことを認識し得ないような場合などには,著作権法32条1項の適用を受け得ないと解される。
また,当該利用行為が「公正な慣行」に合致し,また「引用の目的上正当な範囲内」で行われたことについては,著作権法32条1項の適用を主張する者が立証責任を負担すると解されるが,その判断に際しては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。
⑶ 本件映画と本件各映像(本件使用部分)との関係についてこれをみると,本件映画は,資料映像・資料写真とインタビューとから構成されるドキュメンタリー映画であり,その中で資料映像として使用されている本件各映像は,テレビ局である原告の従業員が職務上撮影した報道映像である。
そして,本件映画のプロローグ部分のうち,被告制作部分は,画面比が16:9の高画質なデジタルビデオ映像であり,他方,本件使用部分は,画面比が4:3であり,被告制作部分に比して画質の点で劣っているから,被告制作部分と本件使用部分とは,一応区別されているとみる余地もある。
しかし,本件映画には,本件使用部分においても,エンドクレジットにおいても,本件各映像の著作権者である原告の名称は表示されていない。
被告は,上記のとおり本件映画において原告の名称を表示しない理由について,映像の出所は劇場用映画などからの引用の場合以外は表記しないとか,資料写真の出所は写真家の名前を伝える必要がある場合に限って表記するなど,制作上の方針を主張するにとどまり,本件映画のようなドキュメンタリー映画の資料映像として報道用映像を使用するに際し,当該使用部分においても,映画のエンドクレジットにおいても著作権者の名称を表示しないことが,「公正な慣行」に合致することを認めるに足りる社会的事実関係を何ら具体的に主張,立証しない。・・・
実質的にみても,資料映像・資料写真を用いたドキュメンタリー映画において,使用される資料映像・資料写真自体の質は,資料の選択や映画全体の構成等と相俟って,当該ドキュメンタリー映画自体の価値を左右する重要な要素というべきであるし,テレビ局その他の報道事業者にとって,事件映像等の報道映像は,その編集や報道手法とともに,報道の質を左右する重要な要素であり,著作権法上も相応に価値が認められてしかるべきものであるから・・・,ドキュメンタリー映画において資料映像を使用する場合に,そのエンドクレジットにすら映像の著作権者を表示しないことが,公正な慣行として承認されているとは認め難いというべきである。
そうすると,総再生時間が2時間を超える本件映画において,本件各映像を使用する部分(本件使用部分)が合計34秒にとどまることを考慮してもなお,本件映画における本件各映像の利用は,「公正な慣行」に合致して行われたものとは認められない。
したがって,著作権の行使に対する引用(著作権法32条1項)の抗弁は成立しない。