平底幅広浚渫用グラブバケット事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年04月27日
事件名 平底幅広浚渫用グラブバケット事件
キーワード

着目点 前訴と同一の主引用例に基づく進歩性の判断において、前訴判決と別異の事実を認定して異なる判断を加えることは許されないとした例
事件番号 平成29年(行ケ)10202号

判決のポイント

争点

 判決の拘束力によって拘束される理由・証拠の範囲

裁判所の判断

1 前訴判決の拘束力について

(1)特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,再度の審理,審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,容易に発明することができたとする審決の認定判断が誤りであるとして審決が取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されない。したがって,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。

 

(2)これを本件についてみるに,前記第2の4(2)のとおり,前訴判決は,①「取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明1に周知技術2を適用し相違点2に係る本件発明の構成の容易想到性を認めることはできない,引用発明1に甲4技術を適用しても相違点2に係る本件発明の構成には至らないとし,②「取消事由2(引用発明2を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明2に甲4技術を適用する動機付けが存在することを認めるに足りない,引用発明2に甲16及び甲26の構成を適用しても相違点8に係る本件発明の構成に至らないなどとして,引用例1又は2に基づいて容易に想到できるとした第3次審決を取り消したものである。

したがって,再度の審判手続において,審判官は,前訴判決が認定判断した同一の主引用例(引用例1又は2)をもって本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かにつき,前訴判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは,取消判決の拘束力により許されないのであるから,本件発明は当業者が引用例1又は2から容易に発明することができたとはいえないとした本件審決は,確定した前訴判決の拘束力に従ったものであり,適法である。

そして,再度の審決取消訴訟たる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証として甲114ないし118を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないというべきである。発明の容易想到性については,主引用発明に副引用発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断することとなるところ,原告は,第3次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において,引用例1又は2に基づく容易想到性を肯定する事実の主張立証を行うことができたものである。これを主張立証することなく前訴判決を確定させた後,再び開始された本件審判手続及びその審決取消訴訟である本件訴訟に至って,原告に,前訴と同一の引用例である引用例1及び2から,前訴と同一の本件発明を,当業者が容易に発明することができたとの主張立証を許すことは,特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復することになりかねず,訴訟経済に反するもので,行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし,許されない。

よって,原告主張の取消事由1及び2は理由がない。

 

(3)原告の主張について

ア 原告は,前訴判決の拘束力が生じるのは,「甲4,甲16及び甲26に基づく周知技術1についての認定」の部分に限られる旨主張する。

しかし,前訴判決は,単に周知技術1の認定に誤りがあることをもって第3次審決を取り消したものではなく,引用例1又は2から当業者が本件発明を容易に発明することができたとはいえないとの理由により,第3次審決の認定判断に誤りがあるとしてこれを取り消したものであることについては,前記第2の4(2)のとおりである。原告の主張は,その前提を誤るものであり,採用できない。

イ 原告は,前訴判決において取り消されたのは,相違点2及び8に関する特許庁独自の見解であって,原告が主張していた相違点②ないし④についてのものではないから,前訴判決の拘束力を原告のオリジナルな主張にまで及ぼすと解することは妥当でない旨主張する。

しかし,第3次審決が認定した相違点2は,原告が主張していた相違点②ないし④と同様であるところ,原告は,前訴の際には,第3次審決が相違点2を認定したこと並びに甲4,甲16及び甲26により周知技術1を認定したことに誤りはない旨主張していたものである(甲112,乙2)。また,前訴判決は,第3次審決が認定した本件発明と引用発明1との相違点(相違点1ないし7)及び本件発明と引用発明2との相違点(相違点8ないし13)に誤りはないと認定した上で,相違点2及び相違点8について,当業者が容易に想到できたとはいえないことを理由に,本件発明は引用発明1又は2から容易に発明できたものではないと判断したものである。したがって,前訴判決の拘束力は,本件発明と引用発明1及び2との相違点に係る判断に及ぶものであり,再開後の審決において,当事者がこれと異なる相違点を主張立証することが許されないことは明らかである。原告の主張する事情は,本件審決が確定した前訴判決の拘束力に従った適法なものであるとする前記(2)の認定を左右するものではない。