ありがとう事件
裁判所 | 知財高裁 |
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判決日 | 2018年06月21日 |
事件名 | ありがとう事件 |
キーワード | |
着目点 | 引用商標を結合商標と認定したうえでこれを分離観察して、外観・称呼・観念のいずれも同一とした事例 |
事件番号 | 平成30年(行ケ)10002号 |
判決のポイント
争点
本願商標と引用商標との類否
裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標と引用商標Aとの類否判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきところ,その際には,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかもその商品等の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合は,その構成部分を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合等には,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。以下,この判断枠組みに基づいて,本願商標と引用商標との類否を検討する。
(2) 本願商標
本願商標は,「ありがとう」の文字を標準文字で表してなるものである。
そして,「ありがとう」の語は,「感謝の意をあらわす挨拶語」の意味を有する(乙7)。
したがって,本願商標からは,「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じる。
(3) 引用商標A
ア 引用商標Aは(中略)結合商標と解される。
イ 引用商標Aの構成中,「ありがとう」の文字部分は,引用商標Aを見る者に強い印象を与えるとともに,その注意を強く引くものであると認めるのが相当である。
これに対し,招き猫の図形部分と「ありがとう」の語とが,観念的に密接な関連性を有しているとは考え難いし,一連一体となった何かしらの称呼が生じるともいえない。
これらの事情を総合すると,招き猫の図形部分と「ありがとう」の文字部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから,当該図形部分と当該文字部分は,それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であるというべきである。
ウ 以上によれば,引用商標Aにおいては,その全体から「アリガトウ」の称呼及び「感謝の意を表す招き猫」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。
そして,招き猫の図形部分からは特定の称呼を生じないものの,「招き猫」との観念が生じ,また,「ありがとう」の文字部分から,「アリガトウ」の称呼及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。
(4) 本願商標と引用商標Aの類否
本願商標と,引用商標Aの要部である「ありがとう」の文字部分とは,外観上,書体の相違以外は同一であり,さらに,上記(2)及び(3)において説示したとおり,両者は称呼上も観念上も同一である。
したがって,本願商標と引用商標Aとは,出所について誤認混合を生ずるおそれがあり,両商標は類似するものというべきである。
2 取消事由2(本願商標と引用商標Bとの類否判断の誤り)について
(2) 引用商標B
ア 引用商標Bは(中略)結合商標と解される。
イ 引用商標Bの構成中,「ありがとう!」の文字部分は,引用商標Bを見る者に強い印象を与えるとともに,その注意を強く引くものであると認めるのが相当である。
これに対し,引用商標B中に記載されている全ての文字部分と新幹線車両の図形を全体として観察すると,観念上,「東海道新幹線が開業50周年を迎えたことに対し感謝の意を表する」といった程度の理解が可能であるものの,「ありがとう!」の文字部分とその余の部分とが,常に一体として把握しなければならないほどに観念的に強固に結びついたものであるとまではいい難い。また,引用商標B全体からは,「アリガトウフィフティースアニバーサリートウカイドウシンカンセンカイギョウゴジュッシュウネン」の称呼が生じるが,明らかに一気に称呼するには余りにも冗長である。さらに,「ありがとう!」の文字部分及びその余の部分は,指定商品・役務との関係で,当該商品・役務の品質等を表すものともいえない上,このほかに各部分が単独では出所識別機能を有さないと認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
これらの事情を総合すると,引用商標Bを構成する「ありがとう!」の文字部分とその余の部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから,当該文字部分とその余の部分は,それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であるというべきである。
ウ そして,「ありがとう!」の文字部分中,感嘆符は感嘆や強調を表す符号にすぎないから(乙9),当該文字部分からは,「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じるというべきである。
エ 以上によれば,引用商標Bにおいては「ありがとう!」の文字部分から「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念が生じると認められる。
(3) 本願商標と引用商標Bの類否
本願商標と,引用商標Bの要部である「ありがとう!」の文字部分とは,外観上,感嘆符の有無及び書体の相違以外は同一であり,さらに,上記(1)及び(2)において説示したとおり,両者は称呼上も観念上も同一である。
したがって,本願商標と引用商標Bとは,出所について誤認混合を生ずるおそれがあり,両商標は類似するものというべきである。
4 結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法があるということはできない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
参考:原告商標「ありがとう」(標準文字)