照明器具の図柄事件
裁判所 | 知財高裁 |
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判決日 | 2018年07月25日 |
事件名 | 照明器具の図柄事件 |
キーワード | |
着目点 | 他者のデザインに係るランプシェードの立体形状を平面化した登録商標につき、引用商標の周知性と不正の目的が認められた例 |
事件番号 | 平成30年(行ケ)10004号 |
判決のポイント
争 点
商標法4条1項19号該当性
裁判所の判断(抜粋)
1 引用商標の周知性について
・・・
(2) 引用商標の周知性の有無について
ア 引用商標(注:「PH5」と称されるランプシェード(「被告商品」)の立体的形状)が,・・・日本国内における「需要者の間に広く認識されている」ものであったかどうかについて判断する。
イ 被告商品がランプシェード商品であることからすると,被告商品の需要者は,照明器具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者であることが認められる。
そこで,まず,被告商品の販売状況をみると,・・・被告商品は,日本国内において,1976年(昭和51年)から約40年間にわたり継続して販売されているランプシェードのロングセラー商品であり,最近の販売台数は,1999年(平成11年)以降の1年当たりの平均販売台数(約4664台)を上回り,増加傾向にあることが認められる。
ウ(ア) 被告商品の広告宣伝状況をみると,ヤマギワ又は被告日本法人は,全国の建築設計事務所,・・・等の約5000社(人)(同一法人の重複分を含む。)の被告の顧客リスト(甲102)に掲載された顧客に対し,定期的に被告商品が掲載された商品カタログを配布していたことは,前記(1)イ(イ)及びウ(ア)のとおりである。
そして,商品カタログにおける被告商品の取り上げ方をみると,・・・被告商品が近代照明の父と呼ばれるヘニングセンがデザインした「世界のロングセラー」商品であって,「PH」シリーズの中の代表的な商品であることを強調し,被告商品のデザインを印象づけるような広告が繰り返しされている。
(イ) 被告商品の雑誌等の出版物への掲載状況をみると,・・・多数の出版物において,被告商品の形態(立体的形状)が認識できるような写真と共に紹介されており,その基本的な内容は,被告商品は,20世紀を代表するデザイナーであるヘニングセンが1958年にデザインし,被告が販売する世界のロングセラー商品であり,そのデザインが優れていることを強調するものといえる。
エ 前記イ及びウで認定した被告商品の販売状況及び広告宣伝状況に加えて,被告商品は,平成9年度通商産業省選定グッド・デザイン外国商品賞(インテリア用品部門)を受賞し,平成24年には高等学校の教科書において,被告商品の写真と共に,「モダンデザインの代表的ペンダント PH5…ポール・ヘニングセン」として掲載されたこと(前記(1)エ)を総合すると,被告商品は,その販売が開始された1976年(昭和51年)当時,その2層目から5層目が組み合わさった形状において,他のランプシェード商品には見られない独自の特徴を有しており,しかも,被告商品が上記販売開始後本件商標の登録出願日(平成25年6月14日)までの約40年間にわたり全国的に継続して販売され,この間被告商品のデザインを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果,本件商標の登録出願時までには,被告商品が日本国内の広範囲にわたる照明器具,インテリアの取引業者及び照明器具,インテリアに関心のある一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られるようになり,被告商品の立体的形状(引用商標)は,周知著名となり,自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められる。
3 不正の目的について
・・・
(2) 不正の目的の有無について
ア・・・本件商標の登録出願時までには,・・・被告商品の立体的形状(引用商標)が周知著名となっていたことは,前記1(2)エのとおりである。
加えて,原告は,平成25年2月当時,被告商品を元にできるだけ忠実に復刻生産したランプシェードの商品(原告商品)を「ポール・ヘニングセンPH5」のリプロダクト品として原告のウェブサイト上で販売していたこと(前記(1)ア及びイ)を併せ考慮すると,原告は,本件商標の登録出願時(同年6月14日)において,被告商品は,ヘニングセンがデザインした被告が製造販売する商品であること及び被告商品の立体的形状(引用商標)について十分に認識していたことが認められる。
イ 前記(1)の認定事実によれば,原告は,被告から,被告商品(PH5のランプシェード)のリプロダクト品である原告商品の販売が被告の商標権及び著作権を侵害し,不正競争に当たるので,原告商品等の販売の差止め及び損害賠償を求めることなどを記載した電子メールの送信を受けた後,被告との交渉を進める中で,本件商標の登録出願を行い,しかも,被告が,商標登録された引用商標の商標権に基づき,引用商標又はこれに類似する商標を付したランプシェードについて東京税関長に対して輸入差止申立てをしたことの対抗措置として,本件商標の商標権に基づいて被告商品について東京税関長に対して輸入差止申立てをしたことが認められる。
また,周知な商品の形態(立体的形状)は,周知な「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)として不正競争防止法により保護され得ることは,インテリア商品の販売を業とする原告においては当然に認識すべき事柄であるといえる。
ウ 前記ア及びイの認定事実を総合すると,原告は,被告商品の立体的形状(引用商標)が被告商品を表示するものとして需要者の間に周知著名であることを十分に認識しながら,被告から原告商品の販売が被告の商標権及び著作権を侵害し,不正競争に当たる旨の警告を受けた際に,引用商標が未だ商標登録されていないことに乗じ,被告との交渉を有利に進め,あるいは対抗手段を確保することを意図して,本件商標の登録出願を行い,しかも,現に本件商標の商標権に基づいて被告商品に対する輸入差止申立てを行っていることが認められるから,原告による本件商標の登録出願は,被告による被告商品の営業活動に支障を生じさせることを目的とするものというべきである。