UNITED TOKYO事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年09月10日
事件名 UNITED TOKYO事件
キーワード

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着目点 商標法4条1項11号、その業界でありふれた形容詞と地名からなる結合商標は分離観察できないとした事例
事件番号 平成30(行ケ)10019号

判決のポイント

争 点
被服等を対象とする、形容詞と地名からなる商標「UNITED TOKYO」は分離観察できるか

裁判所の判断
1 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,原則として許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
そこで,本件商標と引用商標との類否の判断に当たって,本件商標の一部である「UNITED」を抽出して,引用商標と比較することができるかについて検討する。
(1) 「UNITED」及び「TOKYO」の意味等について
ア 「UNITED」の語は,「結合した,連合した」などの意味を有する形容詞であり,上記意味で使用した結合語として,「United Nations」(国際連合),「United Kingdom」 (英国)及び「United States of America」(アメリカ合衆国)などがある。
被服又は靴類を指定商品として商標登録された「UNITED」を含む商標は非常に多い。
イ 「TOKYO」は日本の首都を英語表記したものであり,被服又は靴類を指定商品として商標登録された「TOKYO」を含む商標は非常に多い。
(2)
ア 本件商標は,「UNITED TOKYO」の欧文字を標準文字で一列に横書きしてなり,「UNITED」と「TOKYO」との間に1文字分の間隔が設けられているが,外観上一体の語であると見ることができる。また,本件商標は,「ユナイテッドトーキョー」とよどみなく一連に称呼することができる。
イ 前記のとおり,「UNITED」の語は,「結合した,連合した」などの意味を有する形容詞であり,「TOKYO」の語は名詞であるから,「UNITED」の語は「TOKYO」の語を修飾しており,「UNITED TOKYO」という語は,「結合した東京」,「連合した東京」又は「東京連合」と訳される。その言葉は必ずしも一般的に用いられているものではないが,東京には,数多くの人が居住し,また,特色,歴史及び文化の異なる多くの地域があることからすると,それらの連合体を観念することができ,したがって,「結合した東京」,「連合した東京」又は「東京連合」をそのような意味で理解することも可能であるというべきである。そうすると,本件商標は,「結合した東京」,「連合した東京」又は「東京連合」という観念上一体のものとして理解されることもあり得るというべきである。
ウ 一方,「UNITED」という語は,「結合した,連合した」などの意味を有する形容詞であるから,他の語と一体となって,その語を修飾するために用いられるのであり,単独では意味を取りにくい語であるといえる。また,前記のとおり,被服又は靴類を指定商品として「UNITED」を含む商標が登録された例は非常に多いことから,ファッション業界においては,「UNITED」という語はありふれているものと認められる。さらに,本件証拠上,「UNITED」が原告の商品又は営業を示すものとして周知であるといった事情も認められない。
エ 以上からすると,本件商標は,一連一体のものとして理解されるというべきであって,「UNITED」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとか,「TOKYO」の部分から出所識別標識としての称呼,観念を生じないなどということはできないから,引用商標との類否の判断において,「UNITED TOKYO」から「UNITED」の部分を抽出して,同部分と引用商標とを比較することは相当ではないというべきである。
(3)
ア 原告は,「TOKYO」の語が被服等に用いられた場合,そのブランドの発信地を意味するものとして需要者に認識されるのであるから,本件商標のうち「TOKYO」の部分は商品の品質,産地あるいは役務の提供地を表示するものにすぎず,「TOKYO」の部分には識別力がない旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本件商標のうち,「UNITED」の語は形容詞であり,これに続く「TOKYO」の語を修飾していること,「UNITED」の語意からすると,単独では意味を取りにくく,他の語と併せて一つの意味のある言葉となること,本件証拠上,「UNITED」が原告の商品や原告の営業を表示するものとして,周知であるといった事情も認められないこと,一方,「UNITED TOKYO」の語からは,「結合した東京」,「連合した東京」又は「東京連合」という観念が生じ得ることなどからすると,「UNITED TOKYO」のうち「TOKYO」の語が,「UNITED」とは切り離された独立のものとしてブランドの発信地を意味し,商品の品質,産地あるいは役務の提供地を表示するものにすぎないと理解されることはないというべきである。
イ 原告は,被告は会社名に「TOKYO」を使用しているほか,ウェブサイト等において,「UNITED TOKYO」が東京のリアルなモードスタイルを発信していくブランドであることを強調していることから,本件商標のうち,「TOKYO」の部分は,東京発のブランドであることを示すために用いられていると主張する。
証拠によると,被告の開設するウェブサイトには,「TOKYOブランドにこだわり,TOKYOのリアルなモードスタイルを世界へ発信」,「伝統的なモノ,最先端のモノ,異文化のモノも絶妙なバランス感覚で調和できる『TOKYO』特有の感性」,「東京のクリエーションと日本の技術のプラットホームになれば良いそんな想いと創造を東京/日本から世界へ発信」,「TOKYOを代表するクリエーターと共に,TOKYOのクリエーションを『UNITED TOKYO』のフィルターを通して提案していきます」との記載があり,また,他のウェブサイトの被告を紹介した記事の中に「東京を拠点とするクリエーターとコラボレーションしたアイテムを展開する」との記載があることが認められる。 上記事実からすると,ウェブサイトにおいて,被告のブランドが東京発のブランドであるとの記載があることが認められるが,前記(2)イのとおり,「UNITED TOKYO」から東京に居住する人々や東京の各地域の連合体という観念を生じ得ることからすると,被告のブランドが東京発のブランドであると記載されることは自然なことであって,被告のブランドが東京発のブランドであるとの記載があることから直ちに,本件商標の「TOKYO」の部分が商品の品質,産地あるいは役務の提供地を表示しているにすぎないということはできないというべきである。
2 以上を前提に,本件商標と引用商標との類否を検討する。
(1) 証拠によると,引用商標1は,「UNITED」の欧文字及び「ユナイテッド」の片仮名を同じ大きさで上下二段に横書きしてなること,引用商標2は,別紙2(2)のとおり,「UNITED」の欧文字を同じ大きさで横書きしてなることが認められる。
(2) 本件商標は,「UNITED TOKYO」の欧文字を同じ大きさで横書きにしてなるのに対し,引用商標1は,「UNITED」の欧文字及び「ユナイテッド」の片仮名を上下二段に同じ大きさで横書きしてなり,引用商標2は,「UNITED」の欧文字を同じ大きさで横書きしてなるものであるから,本件商標は,引用商標1及び引用商標2のいずれとも,外観が明らかに相違する。
また,本件商標からは,「ユナイテッドトーキョー」の称呼が生じるのに対し,引用商標1及び引用商標2からは,「ユナイテッド」の称呼が生じるから,本件商標は,引用商標1及び引用商標2のいずれとも,称呼が相違する。
さらに,本件商標からは,「結合した東京」,「連合した東京」又は「東京連合」という観念が生じるのに対し,引用商標1及び引用商標2からは,「結合した」との観念が生じるから,本件商標は,引用商標1及び引用商標2のいずれとも,観念が相違する。
したがって,本件商標と引用商標とは類似しないというべきである。
3 以上によると,本件商標は,引用商標に類似する商標(商標法4条1項11号)には当たらないから,これと同旨の審決の結論に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

参考:
登録商標:UNITED TOKYO(標準文字)

引用商標1:

引用商標2: