抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ事件
裁判所 | 知財高裁 |
---|---|
判決日 | 2018年10月11日 |
事件名 | 抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ事件 |
キーワード | |
着目点 | 抗体医薬の用法用量発明の進歩性を認めた審決が取り消された例 |
事件番号 | 平成29年(行ケ)10165号 平成29年(行ケ)10192号 |
判決のポイント
争点
4/2/1投与計画に用いる抗体医薬に係る引用発明に対し、8/6/3投与計画に用いる同一抗体医薬に係る本件発明が進歩性を有するか。
裁判所の判断(抜粋)
(4) 本件発明6の進歩性
ア 構成について
(ア) 当業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2-1に係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否かについて検討する。
(イ) 前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを技術常識として有していたものである。
そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週1回10~500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここで,週1回10~500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.167~8.33mg/kg,70kgの場合は0.143~7.14mg/kgに相当する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与できることは,示唆されているといえる。
また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。
さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2-1のとおり本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が,このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって投与するに至るのは容易である。