ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規結晶形事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年11月21日
事件名 ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規結晶形事件
キーワード

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着目点 医薬化合物を結晶化することについて強い動機付けがあると認定し発明の進歩性を否定した拒絶審決が、支持された事例
事件番号 平成29年(行ケ)10196号

判決のポイント

争 点

 引用例に記載の化合物Pについて,当業者が結晶を得られる条件を検討したり,得られた結晶について分析する動機付けがあるか。

裁判所の判断(抜粋)

イ 医薬化合物の結晶化に係る技術常識

 前記アの記載事項を総合すると,本願の優先日(平成23年6月29日)当時,①結晶性製品は一般に取扱い及び製剤化が容易であるため,医薬品原薬の多くは最終工程において結晶状態として製造され,また,医薬品においては,結晶多形が安定性,溶解性,バイオアベイラビリティに影響を及ぼし得ることから,医薬品開発においては,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討が必要であるとともに,結晶多形の最適化ための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングが必要であること,②結晶多形の存在及びその分析のために,X線粉末回折が通常用いられること,③酢酸エチルは,結晶化溶媒として,安全性が高く,最も普通に使用される溶媒の一つであることは,技術常識であったものと認められる。

(4) 相違点の容易想到性の有無について

ア 刊行物1には,実施例1の最終生成物の化合物Pを含む医薬組成物は,ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤として,糖尿病,特に2型糖尿病のようなジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用であることの記載(前記(2)ア(イ)ないし(エ),(サ))があるから,実施例1の最終生成物の化合物Pは医薬化合物であるものと認められる。

 前記(3)イ認定の本願の優先日当時の技術常識に照らすと,刊行物1に接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合物P(引用発明)について,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるものと認められる。

 そして,室温で安定な結晶は,冷蔵保存の必要がないため医薬品化合物として望ましいことは自明であるから,結晶多形の探索ないし多形スクリーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を最も普通に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであるものと認められる。・・・

 そうすると,当業者は,通常なし得る試行錯誤の範囲で,刊行物1の実施例1の最終生成物の化合物Pについて上記結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行うことにより,室温での安定性が優れた結晶として形Iの結晶質を得ることができたものと認められる。

 以上によれば,刊行物1に接した当業者は,刊行物1及び上記技術常識に基づいて,引用発明について相違点に係る本願発明の構成(化合物Pの形Iの結晶質の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。