地殻様組成体の製造方法事件
裁判所 | 知財高裁 |
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判決日 | 2018年12月06日 |
事件名 | 地殻様組成体の製造方法事件 |
キーワード | |
着目点 | 引用文献には審決が認定した引用発明が記載されているとはいえないとして、審決が取り消された事例 |
事件番号 | 平成30年(行ケ)10041号 |
判決のポイント
争 点
引用文献に,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法という具体的な技術的思想が記載されているといえるか。
裁判所の判断(抜粋)
イ ・・・引用文献は,その表題から,放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたものと認められる。
そして,引用文献の「1 これまでの経緯と今後の予定」の項の記載から,①平成23年9月から,「放射性物質対策検討特別部会」において下水汚泥焼却灰等の安全な処分に向けた検討が開始されたこと,②同年10月から,下水汚泥焼却灰等の処分に関する安全性評価検討業務委託がされ,委託先の有識者委員会である汚染焼却灰等処分安全性評価委員会が3回開催されたこと,③平成24年3月に東日本大震災対策本部会議が開催又は予定され,処分に向けた検討の方向性について確認されること,④同年4月以降,実現に向けた課題の抽出や整理が行われる予定であることが理解できる。
また,「2 第1~3回汚染焼却灰等処分安全性評価委員会での有識者からの主な意見」の項の記載は,上記有識者委員会での主な意見をまとめたものと理解できるところ,「(前提)」の欄に,「今回の安全性評価の中では,セシウム(Cs134,Cs137)を対象としたことを前提条件として明示することが望ましい」との記載があることから,放射性物質としてセシウムが検討対象になっていたことが把握できる。
さらに,「(方針)」の欄に,「再利用(下水汚泥焼却灰のセメント原料化)の再開を目指すことは望ましい」,「めやす値より低いからそれで良しとするのではなく,さらに,できる限り影響が小さくなるよう対策する姿勢が重要」との記載があることから,上記有識者委員会において,放射性物質としてセシウムを含む下水汚泥焼却灰のセメント原料化の再開を目指すこと,放射線の影響はできる限り小さくするよう対策すべきことが,方針に関する有識者の意見として存在したことをそれぞれ理解できる。
その一方で,引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのように焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであるか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さくなるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しない。
そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひとまとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。
ウ したがって,その余の点について認定,判断するまでもなく,引用文献に審決が認定した引用発明が記載されているとはいえない。
*引用文献は、川崎市ホームページに掲載された「放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分にむけた検討状況」と題する資料。
http://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000015/15973/file1504.pdf