住宅地図事件

裁判所 東京地裁
判決日 2019年01月31日
事件名 住宅地図事件
キーワード

着目点 明細書および図面の記載を参酌し、特許請求の範囲の記載を限定した事例
事件番号 平成29年(ワ)34450号

判決のポイント

争  点

 請求項上の文言の解釈

 

事案の概要

本件発明は,以下のとおり,分説することができる(以下,分説された構成要件の符号に従い,「構成要件A」などと表記する。)。

A 住宅地図において,

B 検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載すると共に,

C 縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成し,

D 該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し,

E 付属として索引欄を設け,

F 該索引欄に前記地図に記載の全ての住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載した,

G ことを特徴とする住宅地図。

 

裁判所の判断

 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 被告地図プログラムは,ユーザが,インターネット上の「https://以下省略」のURLにアクセスし,所定の操作をするなどすると,ユーザの端末にインストールされているWebブラウザを介して,ユーザ端末のディスプレイに地図を表示できるようにしたプログラムである。

 被告地図において,市区町村名,町名,丁目及び番の表示の右側に〔地図〕と表示された部分等にはハイパーリンクが設定されており,ユーザがディスプレイ画面上で当該ハイパーリンクをクリックすると,緯度経度を含む地点データと縮尺データを含むURLが被告地図の地図提供サーバに送信される。地図提供サーバが,この地点データに係る地点を含み,かつ,縮尺データに係る縮尺のメッシュ地図を地図データベースサーバから読み出し,ユーザのパソコンに送信することにより,ユーザのディスプレイ画面上において当該緯度経度を中心とした所定の縮尺の地図が表示される。

 インターネットに接続した状態で被告地図をユーザのディスプレイ画面に表示し,その後,インターネットの接続を停止した上で地図表示画面をスクロールさせると,地図が表示されない部分が画面上に表示される。

 

 構成要件Dの「適宜に分割して区画化」について

 構成要件Dの「適宜に分割して区画化」の意義について,特許請求の範囲の「各ページを適宜に分割して区画化し,…住宅建物の所在する番地を前記地図上における前記住宅建物の記載ページ及び記載区画の記号番号と一覧的に対応させて掲載」という記載(構成要件D,E及びF)に照らせば,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは,記号番号を付すことや番地と対応する区画を一覧的に示すことができる区画を作成することが可能となるように,検索すべき領域の地図のページを分割し,認識できるようにすることといえる。

 そして,本件発明は,地図上に公共施設や著名ビル等以外は住宅番地のみを記載するなどし,全ての建物が所在する番地について,掲載ページと当該ページ内で分割された該当区画を一覧的に対応させて掲載した索引欄を設けることによって,簡潔で見やすく迅速な検索を可能にする住宅地図の提供を可能にするというものであり,本件発明の地図の利用者は,索引欄を用いて,検索対象の建物が所在する地番に対応する,ページ及び当該ページにおける複数の区画の中の該当の区画を認識した上で,当該ページの該当区画内において,検索対象の建物を検索することが想定されている。そのためには,当該ページについて,それが線その他の方法によって複数の区画に分割され,利用者が該当の区画を認識することができる必要があるといえる。そうすると,本件明細書に記載された本件発明の目的や作用効果に照らしても,本件発明の「区画化」は,ページを見た利用者が,線その他の方法及び記号番号により,検索対象の建物が所在する区画が,ページ内に複数ある区画の中でどの区画であるかを認識することができる形でページを区分することをいうといえる。

 本件明細書には、発明の実施の形態において,本件発明を実施した場合における住宅地図の各ページの一例として別紙「本件明細書図2」及び「本件明細書図5」が示されているところ,これらの図においては,いずれも道路その他の情報が記載された長方形の地図のページが示されたうえで,そのページが,ページ内にひかれた直線によって仕切られて複数の区画に分割されており,その複数の区画にそれぞれ区画番号が付されている。また,本件明細書図4の索引欄には,番地に対応する形でページ番号及び区画番号が記載されており,利用者は,検索対象の建物の番地から,索引欄において当該建物が掲載されているページ番号及び区画番号を把握し,それらの情報を基に,該当ページ内の該当区画を認識して,その該当区画内を検索することにより,目的とする建物を探し出すことが記載されている(段落【0028】)。ここでは,上記の特許請求の範囲の記載や発明の意義に従った実施の形態が記載されているといえる。そして,「区画化」の意義に関係して,他の実施の形態は記載されていない。

 以上によれば,構成要件Dの「区画化」とは,地図が記載されている各ページについて,記載されている地図を線その他の方法によって仕切って複数の区画に分割し,その各区画に記号番号を付すことであり,索引欄を利用することで,利用者が,線その他の方法及び記号番号により,当該ページ内にある複数の区画の中の当該区画を認識することができる形で複数の区画に分割することを意味すると解するのが相当である。

 原告は,被告地図において,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当すると主張した上で,被告地図のデータは,画面に表示されるときに区分された形でその一部が表示されるから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」されると主張するとともに,「メッシュ化」され,また,複数のデータとして管理されているから構成要件Dの「適宜に分割して区画化」することになると主張する。

 しかし,仮に,縮尺レベル19の住宅地図及び縮尺レベル20の住宅地図がそれぞれ構成要件Dの「該地図を記載した各ページ」に該当するとしても,利用者は,画面に表示されている地図を見ているのであって,線その他の方法及び記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。被告地図において「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータとして管理されているとしても,被告地図プログラムの構成に照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分されたデータを通常認識しないだけでなく,それらに対応する記号番号を認識することはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。そうすると,被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとはいえない。

 これらによれば,被告地図について,構成要件Dの「適宜に分割して区画化」がされているとは認められない。

 

 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。