アイコスケース事件

裁判所 大阪地裁
判決日 2019年03月28日
事件名 アイコスケース事件
キーワード

着目点 意匠権侵害差止等請求事件において先使用権が認められたケース
事件番号 平成29年(ワ)849号

判決のポイント

争 点

 被告による先使用権の成否

裁判所の判断(抜粋)

2 争点2(被告による先使用権の成否)について

(1) 被告各製品の開発経過について,被告代表者は概ね次のように陳述(乙48,49)及び供述している。・・・

(2) 上記の被告代表者の陳述及び供述のとおりであるとすると,被告は,本件意匠の登録出願日である平成28年6月20日の時点で,原告製品とは関係なく被告各製品のデザインを決定し,その製造委託の発注までをシャインカラー社に対して行うとともに,IMP社から被告製品2の販売を受注していたことになるから,少なくとも日本国内において被告意匠 の実施である事業の準備をしていたことになる。そこで,上記の被告代表者の陳述及び供述の信用性について検討する。・・・

イ ところで,原告製品は同年5月8日に発売されたから,創作者である被告代表者が本件意匠を知らないで被告意匠を創作したといえるためには,同日以前の被告の開発状況が重要になる。そして,被告代表者の陳述及び供述では,シャインカラー社と最初に協議したのは同年5月4日であり,そこでデザインを決めてサンプル製作を指示した次の協議が上記の同年6月15日とされているから,同年5月4日の時点での協議内容(前記(1)イ)の信用性が重要となる。

(ア) まず,被告各製品の開発についてのシャインカラー社との協議が平成28年5月4日に行われたことについては,被告代表者の打合せノートの5月4日の記載(乙30の1及び2)がある。そして,同ノートの記載については,前記のとおり同年6月初旬ころないし同月15日の記載(乙30の4ないし6)が信用し得ると認められることから,被告代表者が日常業務の上で作成していたものとして基本的に信用できると考えられる。また,被告代表者が同年4月から5月にかけて新規のIQOSケースの開発を考えたということには,被告が同年4月当時,セパレートタイプのIQOSケースを開発し,同商品が同年5月18日までに販売されていたと認められること(乙32)から,時期的にもあり得ることである。

(イ) そこで,乙30の1の記載を見ると,「サンプル」として,①「セパレート」,②「ガラ携のベルトケース」,③「2段のスマホケース」が記載されているから,これらを見ながら協議したと認められるところ,①が被告が開発していたセパレートタイプ(乙12,32)であり,③が中国で販売されていた2段重ねタイプ(乙15,16)であると認められる。このうち②は,「実用NG?」と記載されているから候補から外れたと認められ,被告代表者も同旨を述べている。次に,①については,「充のみ」と「充+カートリッヂ(タバコ)」の2通りが検討された記載となっており,これが特段排除された記載はない。しかし,被告代表者は,セパレートタイプは,金具で無理矢理つなげる点や男性的で客層を狭くする点に難点があったことや,被告代表者の息子が作った商品であるために真似をしたくないとの思いがあったと供述しており,この供述は自然かつ合理的なものである。そうすると,この協議において,①のタイプは採用されず,③の2段重ねタイプが採用されたとの被告代表者の陳述及び供述は信用できると考えられ,その場合,乙15及び16の例のとおり,大型収納部と小型収納部を同方向に重ね,それらの幅や高さをタバコパッケージや携帯用充電器の大きさとほぼ同じようにするのは自然なことである。

 そして,乙30の1においては,「別でクリーナーやミニUSBケーブル」との記載があるから,クリーナーを入れられるようにしたり,ミニUSBケーブルを通す孔を設けたりすることが検討されたと認められるところ,前者の点からすると,被告各製品のように両収納部の底部の位置をそろえることにより,小型収納部の上部に余裕空間を設けるのが合理的であり,そのようにすることが乙15及び16の例からも自然であるから,このような方針となった旨の被告代表者の陳述及び供述は信用し得る。・・・

 以上のとおり,被告代表者は被告各製品の開発(被告意匠の創作)過程について具体的な供述をしており,その内容は各証拠とも整合していること同年5月4日の協議から同年6月15日のサンプル確認まで何らかの連絡協議が行われたともうかがわれず,かえって,被告代表者の月に1回程度訪中しているとの供述は,1回の訪中時に数日をかけて数社との打合せをしていること(乙30)と整合していることを考慮すると,被告意匠を同年5月4日の協議の時点で創作していた旨の被告代表者の陳述及び供述は,その信用性を認めることができる