携帯情報通信装置事件
裁判所 | 東京地裁 |
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判決日 | 2021年01月15日 |
事件名 | 携帯情報通信装置事件 |
キーワード | |
着目点 | 業界における実施料の相場として本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することは相当ではないとして、過去の実施許諾契約を参考とした例 (実施料率は0.01%) |
事件番号 | 平成30年(ワ)36690号 |
判決のポイント
争 点
本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき利得の額
裁判所の判断
また,本件報告書では,「電気」の製品分野である,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態及びロイヤルティ決定手順について,次のような記載がされている。
規格技術に関する特許に係るパテントプールの例では,地デジの通信規格技術について,特許300件ほどのパテントプールが形成され,地デジTV一台あたり,200円の特許料が徴収されていること,MPEG2ビデオ圧縮技術について,特許100件ほどのパテントプールが形成され,DVDなどの製品1台あたり,2米ドルの特許料が徴収されていること。
デバイス等の製品は,数百から数千の要素技術で成り立っており,一つのデバイスが関連する特許は膨大な量となり,1件あたりのロイヤルティ料率を定めると100%を超えてしまうため,デバイスに関する特許は,各社が保有する特許群の中で代表的な特許を選抜し,クロスライセンスによる交渉を行うことが主流であり,交渉によって得られたロイヤルティの差がロイヤルティ料率又は一時金として設定され,その相場は1%未満となること。
・・・
ウ 実施料率の認定
(ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,①実際の実施許諾契約における実施料率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することができる。
本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。このような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約の内容を参考とするのが相当である。
そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,そのうち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセンス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成22年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。
なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライセンス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロスライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられるから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,クロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。
(イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,②本件発明が被告各製品にとって代替不可能なものとは認められず,③本件発明を実施することによる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,④原告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.01%と認めるのが相当である。
エ 被告が返還すべき利得の額
以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。