トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年01月30日
事件名 トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物
キーワード 手続違背
着目点 拒絶査定不服審判において,拒絶査定と異なる拒絶理由について,一方の発明に対しては通知したが,他方の発明に対しては実質的に通知しなかった事例の判断
事件番号 平成28年(行ケ)10218号
判決のポイント

争 点 

審決が,新たな理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断したといえるか

裁判所の判断(抜粋)

(3) 取消事由1(手続違背)

ア 特許法50条を準用する同法159条2項の意義

 ・・この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,・・・出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるため,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることによって,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される・・・。

 このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消されている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときには,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきである。・・・

ウ 前記イ(ウ)aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については,本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が,TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,TLR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在することは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していないことが認められる。

 そして,前記イ(エ)によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消するために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知されていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。

 のみならず,前記イ(ウ)bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところである。・・・そうすると,TLR7ないし9についてもアンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるというほかない。

 これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知したものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9に係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったものと認められる。

 したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。

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