水中音響測位システム事件

裁判所 知財高裁
判決日 2019年04月22日
事件名 水中音響測位システム事件
キーワード サポート要件
着目点 補正にて「直ちに」を追加したことが新規事項の追加であると判断される一方、サポート要件に適合すると判断した例
事件番号 平成30年(行ケ)10122号
判決のポイント

争 点

新規事項追加の判断の誤り、サポート要件適合性の判断の誤り

裁判所の判断

・取消事由1(新規事項追加の判断の誤り)について

(イ) ・・・しかし,本件当初明細書には,位置決め演算の時期を限定することに関する記載は見当たらない。

(ウ) この点に関し,審決は,データ処理装置による位置決め演算には,船上で行う場合と,船上で受信したデータを地上に持ち帰って行う場合とがあるところ,後者の場合にはそれなりの時間がかかるから,技術常識をわきまえた当業者であれば,構成Eの「受信次第直ちに」とは,船上で演算を行う場合を指すと理解すると認められると判断した。

しかし,位置決め演算を船上で行うか地上で行うかは,位置決め演算を実行する場所に関する事柄であって,位置決め演算を実行する時期とは直接関係がない。そして,位置決め演算を船上で行う場合には,海底局及びGPSの信号を受信した後,観測船が帰港するまでの間で,その実行時期を自由に決めることができるにもかかわらず,位置決め演算を「受信次第直ちに」実行しなければならないような特段の事情や,本件発明の実施の形態において,当該演算が「受信次第直ちに」実行されていることをうかがわせる事情等は,本件当初明細書に何ら記載されていない。

また,本件当初発明では,構成eに「前記船上局受信部において,…前記海底局の位置を決める演算を行うデータ処理装置と,」と,位置決め演算を船上で行うことが特定されていたのであるから,本件補正によって追加された「受信次第直ちに」との文言を,位置決め演算を船上で行うことと解すると,当初明確な文言によって特定されていた事項を,本来の意味と異なる意味を有する文言により特定し直すことになり,明らかに不自然である。

したがって,「受信次第直ちに」との文言を,船上で位置決め演算を行う場合を指すと解することはできない。

 

・取消事由2(サポート要件適合性の判断の誤り)について

原告は,構成Dの「一斉に」及び構成Eの「直ちに」は,いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項でないと主張する。

しかし,上記2(2)において認定したとおり,本件補正後の本件明細書の段落【0013】には,「前記それぞれの海底局送受信部から届いた順に直ちに返信された各返信信号を一斉に受信する一つの船上局受信部」との記載及び「前記一つの船上局受信部において,前記各返信信号およびGPSからの位置信号を基にして,前記海底局送受信部の位置を決めるための演算を受信次第直ちに行うことができるデータ処理装置」との記載があるところ,これらの記載はそれぞれ構成Dの「一斉に」及び構成Eの「直ちに」の各特定事項に相当するものというべきである。

したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものと認められるから,本件特許はサポート要件に適合する。

よって,この点についての審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由2は理由がない。

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