SAPIX事件

裁判所 知財高裁
判決日 2018年12月06日
事件名 SAPIX事件
キーワード 一般不法行為
着目点 被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,学習塾SAPIX等を運営する控訴人に対する一般不法行為に当たるということはできないと判断した例
事件番号 平成30年(ネ)10050号
判決のポイント

争 点

裁判所の判断

2 争点(1)(一般不法行為の成否)について

(1)…控訴人は,著作権侵害ないし不競法上の不正競争行為の主張をするものではないから,被控訴人の行為が一般不法行為を構成するのは,被控訴人の行為により,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益が侵害されるといえる特段の事情がある場合に限られるというべきであるところ(最高裁判所第1小法廷平成23年12月8日判決,民集65巻9号3275頁参照),被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害すると直ちにいうことはできないし,控訴人の主張も,そのような利益が存在することを十分に論証しているとはいい難い。

さらに,控訴人のテスト問題を入手して解説本の出版やライブ解説の提供を行うについての被控訴人の行為が,控訴人の営業を妨害する態様であったこと,又は控訴人に対する害意をもって行われたことをうかがわせる証拠はなく,被控訴人の行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱する不公正な行為であったとも認められない。

以上のとおりであるから,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が,控訴人に対する一般不法行為に当たるということはできない。

(2) 控訴人の当審における補充主張について

ア 控訴人は,大手学習塾である控訴人学習塾での成績を向上させるため,被控訴人が控訴人において多大な時間と労力をかけて作成したテスト問題の解説を行うという被控訴人学習塾の営業は,控訴人のノウハウにただ乗りするものであって,自由競争の範囲を逸脱し,一般不法行為を構成すると主張する。

しかし,大手学習塾が,自ら作問したテスト問題の解説を提供するという営業一般を独占する法的権利を有するわけではないから,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業として大手学習塾の補習を行うことそれ自体は自由競争の範囲内の行為というべきである。そして,控訴人が主張する,中学校受験生を対象とする学習塾同士が熾烈な競争下にある中で,控訴人がその教育方針に従い,そのノウハウに基づいてテスト問題を作問していること,被控訴人による解説は控訴人による事前の審査を経ておらず,その内容が受験テクニックに偏ったもので,控訴人の出題意図や教育方針に反することといった事情があったとしても,このことから直ちに,被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提供が社会通念上自由競争の範囲を逸脱するということはできない。

イ 控訴人は,被控訴人が,① 控訴人学習塾の生徒をターゲットに控訴人学習塾での成績アップを宣伝文句として生徒を集め,② 控訴人学習塾のテスト問題を中心にライブ解説の提供及び解説本の出版をし,③ 控訴人学習塾の大規模校の周辺を中心に被控訴人の学習塾を展開し,④ 合格率の高い控訴人学習塾の生徒を集客することにより,被控訴人の実績を誇示していることからすれば,被控訴人には,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったと推認されると主張する。

しかし,控訴人学習塾の生徒が被控訴人学習塾を選択し,プリバートに入室しなかったとしても,それが社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものではないのは上記(1)に説示したところから明らかである。そして,上記①~④の事情があることにより控訴人の信用が害されるとする根拠は不明であり,これらの事情から,被控訴人に,控訴人の信用を害してプリバートに入室する生徒を奪う意図があったことが推認されるという控訴人の主張は採用できない。

(3) 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の一般不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

 

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